今まで庶民として生活してきた人間と自分とでは、格が違う。
「妹としての恥もあります」
「恥ることでもねーだろ」
「お兄さんは唐渓のような世界をご存知ないから、そんなお気楽な事が言えるのですわ」
お気楽――― ねぇ
「相変わらず、おキツイお言葉ですこと」
茶化すような聡の態度に、緩の全身が苛立つ。
「ふざけないでくださいませっ! そんな風に毎日毎日ダラダラと過ごしていては、そのうち山脇先輩に取られてしまいますわよっ!」
「あぁ、あの混血キザ野郎には負けるつもりねーから、安心しろ」
とりあえず宥めるのが一番と発した言葉。だが――――
「山脇先輩をバカにするのは、やめてくださいませっっっ!」
あまりの大声に、聡の小さな目が点になる。
「なっ……」
呆気に取られる表情に、緩もハッと我を取り戻す。体裁悪そうに視線を泳がせながら、両の手の指先を忙しく動かす。
「あ…… あのっ……」
激しく動揺し、頬を微かに紅潮させてなんとか言葉を探し出そうとするその態度。明らかにおかしい。
聡は、両手を腹の前で組んで弄繰り回す妹を遠慮もなく凝視し、思案し、やがてゆっくりと口を開いた。
「お前って、ひょっとして瑠駆真のコトが好きだとか?」
「まっ まさかっ!」
顔を真っ赤にして否定するあたり、逆におかしい。
「それって、『はいそうです』って認めてるようなモンだぜ」
「くだらないコトを、申さないでくださいませっ!」
「くだらない? 人を好きになるのは、くだらないコトか?」
「そっ それはっ」
?
本当におかしい。
いつもの緩なら、くだらないコトか? と聞けば、そうだと答えるだろう。
だが、今は微妙に口ごもっている。
………………
ひょっとして、本当に瑠駆真のコトが、好きだとか?
「なっ なんですのっ?」
探るような聡の視線を居心地悪そうに避け、その場を去ろうとする。その行く手を、敏く片手で遮った。
「なにをっ」
咄嗟に逆方向へ身を捩るその肩へ、もう片手を乗せる。
「なっ」
驚いて見上げる義妹へニヤリと笑い、壁へ伸ばした腕をゆっくりと曲げた。そうして、肘までを壁に付ける。
自然と、聡の上体が緩の上へ圧し掛かるように、影を落す。
「何の真似っ?」
壁に追い込まれながらも気丈に相手を見上げるあたり、美鶴に似ている。
ぼんやりとそう思いながら身を屈め、小柄な少女の耳元で口を開いた。
「お前さぁ、マジで瑠駆真のコトが、好きだとか?」
「何をさっきからっ」
「そうやって怒鳴るあたり、マジ怪しい」
「私ではありませんっ」
「……… 私では?」
聡の問いかけに、思わず片手で口を抑える。
「私では? じゃあ、誰だ?」
だが、答えない。覗き込むような義兄の視線を避けるように、顔をそらす。
誰だ?
唇をキュッと結んだまま沈黙する顔を半眼で見下ろし、考えを巡らす。
……………
なるほど
しばらくの後、思い当たる。
「廿楽か」
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